※本記事は、新城WORKのクラウドファンディングにご支援いただいた見吉勇治さんのインタビュー記事です。
今回インタビューさせていただいた見吉勇治さんは、2021年2月から溝の口にあるノクチラボにて、豆花屋さんを始められます。今回は、台湾や豆花の魅力についてお伺いしました。
豆花と台湾に惹かれた理由
―――最初に台湾に行ったきっかけはなんだったのでしょうか。
「仕事の出張です。半導体関係の仕事をしていて、12年前に初めて行きました。その後はしばらく行かない時期もあったのですが、5年前からは年間250日以上台湾に滞在するようになりました。一回の滞在期間も1か月から最長5か月と、ほぼ台湾で生活していましたね。滞在場所は新竹、台中、台南の3か所を、仕事の都合で色々なところに滞在していて、その中でも新竹は、台湾のシリコンバレーと呼ばれるくらい半導体企業が多くあるので、一番長く滞在しました。
休日はそのときに滞在していた場所を拠点にして出かけていたので、台湾全土をまわることができました。いろんな観光地を見てまわってる中で、台湾の独特な文化に触れたり、どことなく懐かしい風景や建物も見たり、その歴史を調べるとそこに日本人が関わっていることも多く台湾と日本のつながりが強いことがわかりました。それで、より一層台湾が身近に感じられるのがうれしかったですね。」
―――行く前から豆花はご存知だったんですか?
「いえ、最初の方は全然知らなくて、本当に偶然出会いました。台湾が人生初海外だったというのもあり、はじめは外国に慣れていなかったので、怖くて地元のお店とかに積極的に行けなかったんです。5年前に行き始めたときは少し慣れてきたので、地元の路面店とかでも食べるようになりました。最初は有名なかき氷や牛肉麺を食べ歩いていたのですが、ホテルの近くを散歩しているときに外で若い人たちが食べているのを見かけて、それが「豆花」でした。
早速そのお店で豆花を食べてみたら、その優しい甘さとなめらかな舌触りの良い食感に感激!それ以来いろんなお店の味が知りたくて、たくさんのお店に行きました。最初は一般的な旅行雑誌を参考にお店に足を運びましたが、すぐに行き尽くしてしまい、途中からはスマホで調べて、観光客にあまり知られていないようなローカルなお店にも行くようになりました。
せっかくなので、台湾の空気を楽しみたいとU-bike(レンタル自転車)でまわるようにしていました。遠いお店だと片道8キロくらいだったので、台湾の強い日差しを浴びて汗だくになりながら日焼けしてました。最高で1日6軒行ったこともあって、最終的にトータル110軒くらいは行ったかな。それくらい、台湾はあちらこちらに豆花屋さんがあるんです。」
▲U bike(台湾のレンタル自転車)
―――なぜ豆花が好きなんですか?
「先ほども少しお話ししましたが、なんと言っても優しい味ですね。仕事で疲れたときにはお店のご主人との交流も相まって、本当に癒されました。豆花はそれ自体やシロップ、トッピングも、お店毎に種類や味が違うので、色々試すのも楽しかったです。台湾全土でたくさんのお店を食べ歩いたので、地域による違いもわかるようになりました。例えば、台北はイチゴやマンゴーなどのフルーツや色とりどりの湯圓(団子)などが添えられている、見た目が賑やかな豆花が他の地域よりも比較的多いですね。自分は、それを進化系豆花と呼んでいます。空港も近くて日本人などの外国人観光客が多いため、インスタ映えする見た目に変化していったんじゃないかと。
それに対して台南の豆花は、小豆やタピオカ・芋圓・ピーナッツなど昔ながらの伝統的なトッピングで、全体的に少し甘さが強めなんです。台湾人の友人に聞いたところによると、台南は昔台湾の首都だった頃、とても裕福だったので、当時貴重だった砂糖をたくさん消費した歴史の名残なんだそうで。そういった昔の伝統が豆花の見た目や味にも関係しているんだろうなと、想像して楽しんでいます(笑)」
▲台南の豆花
―――中国語は話せるんですか?
「いえ、全然話せないです(笑)なので、最初は言語が通じなくて大丈夫か不安で、勇気がいりましたが、台湾のお店って結構注文しやすいんですよ。メニューなども漢字で書かれていますし、紙に自分で書き込んで注文するので。注文以外でも、言葉が通じなくても、ジェスチャーとかでなんとなく会話ができるのが、楽しくなっていきました。豆花のお店はあまりチェーン店がなくて、地元の方が営んでいるお店が多いので、気さくな地元の店主の方と交流できたのもうれしかったですね。」
―――台湾の方ってお話好きな方や、日本のことを好きな方が多いですよね。
「そうですね、台湾の魅力は、やっぱり人だと思います。気さくな方が多くて、言語が通じなくても何かしらでコミュニケーションをとろうとしてきてくれるので、そこから話が弾むこともよくありました。」
―――今でも交流のある方はいらっしゃるんですか?
「はい、向こうで知り合った台湾人と今でもinstagramやfacebookで豆花の情報を交換しています。美味しいお店があったらお互いに紹介しあっていますね。コロナが落ち着いたら是非日本の豆花屋さんについても語り合いたいなと。もちろん今度自分が出店するお店で出す豆花についても感想を聞いてみたいです。」
台南で修行を経て帰国後も試行錯誤を繰り返した、豆花づくり
―――なぜ豆花屋さんを出すことにしたのでしょうか。
「日本でも豆花を食べたんですが、味がだいぶ本場と違かってるお店が多かったんですよ。せっかくこんなに美味しいのに、日本ではアレンジされて違う味で広まっていっているのが、もったいないなと思って。日本でも本場の味を広めたいと、お店を始めようと。すぐにお店を出すというのは難しかったので、まずは豆花自体を知ってもらおうと、最初はinstagramで発信から始めました。」
―――そこからお店を出すとなるのはすごいですね…!お仕事は辞められたんですか?
「はい。思い切って辞めました。やめるのは勇気がいりました、収入が減ってしまいますし、奥さんに少し反対もされたんですけど…(笑)やっぱりやりたい気持ちが勝って、なんとかここまで実現するに至りました。」
―――豆花のつくり方はどうやって学ばれたんですか?
「初めはWebやレシピ本を購入して原材料や作り方を調べました。始めた当初は、豆乳が全然固まらなくてかなり苦労しました(苦笑)そこで、まずは豆乳が固まる原理を徹底的に調べました。大学で化学を学んでいたことも、かなり助けになりました。そして、そのときに『料理は化学だ!』と悟り(笑)ようやく安定して固まるようにはなったのですが、それでも台湾での食感が再現できず悩んでいました。
そんなときに、台南に泊まっていたホテルのすぐ近くにあった豆花屋さんが、これまで巡った中で最もおいしくて、そのご主人に『本場の味を日本でも広めたいから、豆花のお店を日本でも出したい、豆花のつくり方を教えてほしい』と話したら、快諾いただいて、修行に行くようになりました。なので、自分はお店のご主人を師匠と呼んでいるんですが、師匠は日本語が話せる方だったので、細かい内容も日本語で伝えてもらえることができました。
仕事の合間を縫って、大体1年間くらい通いましたね。午前中の7時半から仕込みをやって、大体終わるのが11時くらい。夕方にまたお店に行って、朝の準備ではわからなかったことを聞いたりしていましたね。今思えば、かなりのご迷惑をおかけしていたと思うのですが、それでも師匠はいつも熱心に教えてくださりました。」
―――何か印象に残っているエピソードはありますか?
「師匠と日本で買った豆花に使う材料をを使って試作してみたところ、今までのものより出来が良くて驚いたことがありました。それで、師匠にも火が付いたようで、そこから毎回材料や配分を変えるなど、試作が始まりました。現状の豆花では満足せず、さらなる品質向上を目指す師匠の姿を見てこれが真の豆花職人だなと感じ、自分も頑張ろうと改めて決心しました。
修業最終日直前まで試作が続いて、最初の豆花よりもかなりなめらかで高品質な豆花になってました。もしかすると、師匠は今でも改良を続けているかも知れません。この経験のおかげで、微妙な原料の配分や温度の違いなどが、豆花の品質にどのように影響するのかを深く理解することができましたね。
他のエピソードとしては、こちらからお願いして修行させていただいているのにも関わらず、師匠が朝ごはんを毎回準備してくれていたことです。台湾には、日本人があまり知らないようなかなりローカルな食べ物を出してくれたので、台湾の新しい食を知ることができました。中にはその見た目に躊躇したものもありますが…(笑)」
▲師匠さんのイラスト illustration:mayumi namatame (ご自身も宇都宮でアジアンデザート「NYO NYA KAFE」を経営)
▲台湾のローカルな食事
▲台湾での修行している様子
―――実際に日本で自分でつくってすぐにうまくできたんですか・・・?
「日本に帰ってきてから、台湾で教わった通りにつくってはみたんですけど、同じようにはいかなくて、いろいろ試行錯誤しました。最終的には、日本の豆乳では現地のあの食感は出せないという結論になりました。
豆乳の作り方も日本と台湾では違うので、大豆から台湾の方法で豆乳を作ることにしたんです。それでも大豆の品種や産地の違いによっても、豆花の品質は変わってきますし、台湾と日本では気温や湿度など環境も違うので、何十回も試作してやっと納得できる食感と味になりました。あと本場の味を出すのに欠かせないのがトッピングとシロップです。これらの中にはどうしても現地でしか調達できない材料もあるんですよね。」
―――日本だと簡単に手に入らないものはどうされているんですか?
「台湾で一緒に仕事していた人が協力してくれていて、その人を経由して輸入しています。特に、シロップは台湾特有の材料を使用して作っているので手に入りにくいんですよ。中華街や東京の中華食材店も探してみたんですけど見つからなくて。」
より多くの人に知ってもらうために、お店から広めていく
―――お店を溝の口にされたのはどういった経緯があったのでしょうか?
「自分は茨城に住んでいるのですが、妻が単身赴任で溝の口で働いて新城に住んでいるので、このあたりのエリアを知るようになりました。新城は、1000beroなどイベントが多くて地域のつながりが強く温かい人も多いので、妻からとても気に入っているという話を聞いていたので、お店を出すならこの地域でと思うようになりました。
そんな中で溝の口にあるノクチラボのオーナーの方をご紹介いただく機会に恵まれて、お話を伺ったところシェアマーケットというコンセプトがこれからお店を始めるのにぴったりだと思い、ノクチラボで出店させていただこくことに決めました。駅からも近く人通りも多いので、豆花をより多くの人に知っていくのにも良いなと。」
―――どのように営業されていくのでしょうか。
「2月のプレオープンは2日間限定でやるんですが、3月からは水曜日だけ定休日で、あと営業時間は11時半から17時で予定しています。プレオープンには間に合わなかったメニューも、いくつか本オープンで追加したりと、今後もお店やメニューを進化させていきます。」
―――今後の展望について教えてください!
「直近出すのは独立した店舗ではなく施設内のお店ので、まず最初に独立店舗にしたいっていうのはありますね。そのお店を基幹店として、キッチンカーなどを使ってイベントとかに出店するなど、フレキシブルに移動して、豆花を広めていきたいと思ってます。より多くの人に豆花を知っていただいて、豆花や台湾が大好きな人たちが自然に集って交流や情報交換ができるお店にしていきたいですね。」
見吉さんが出店される「黒猫豆花」についてはこちらから。
豆花や台湾の情報を発信しているinstagramはこちらから。
文:とやまゆか